最近、日本だけでなく世界各国でバレーボールの人気がブームと言っていいほど高まっているのを感じます。秋以外の季節に地上波でバレーボールの試合が放映されるようになったのはいつからか知らずにいて、先日は男子のネーションズリーグの福岡ラウンド第1戦、イラン戦を見逃し(聞き逃し)、悔しい思いをしました。昨日やきょうのバレーファンではない私は、その後はラジオにかじりつくようにしてフォローしていますが、聞けば日本の男バレチームはアイドル並みの人気だとか、高橋藍選手のSNSフォロアーは二百万人を超え、それも半分以上がヨーロッパやアジア諸国の方々だと言うのですから、すごい時代になったものです。フィリピン等アジアでの人気は、日本人は欧米に比べて背が低いのに決して負けてはいないということがその要因の一つのようです。
石川祐希選手や高橋藍選手が所属したイタリアリーグが最高レベルなのは知っていましたが、今回第2戦のドイツ戦では、サッカー、テニス以外でも、ドイツでこんなに強いスポーツがあったのかと、その人気と実力に目が覚める思いでした。その日、既にパリオリンピックの出場権を獲得しているドイツは非常に強く、精度の高い素晴らしいサーブと高い身長から繰り出されるミドルブロッカーの攻撃に、日本はなすすべなく翻弄され、途中までは明らかな負け試合でした。私は日本を応援していましたが、ドイツびいきでもあり、「ドイツすごいな」の一言でした。第4セットを何とかギリギリで日本が取り返したものの、全く予断を許さない状況でした。途中、「おやっ」と思ったのは、ドイツのキャプテンが何事かをしきりに審判に訴えていたことで、これは度が過ぎたと判断されたのかレッドカードが出されました。もともと論理的な思考をする国民性で、納得できないことがあったのでしょうが、この出来事は余裕かと思われたドイツチームにも焦りがあることを示していました。連れ合いのヘルベルトはいつもユーモアを交えて諄々と話し、決してカリカリすることがなかったので、「この状況はドイツにとってあまりよくないな」と思いました。最後の第5セットはそれまで驚異的に決まっていたドイツのサービスエースが、ほんの少しの心身の動きのズレによってか、ミスが目立つようになり、中盤までは競った試合でしたが、後半はなぜか一方的な日本ペースになり、逆にそれまでほぼなかったサービスエースも出て、日本は勝利をものにしました。ドイツにしてみれば、釣り上げたと思った勝利がするりと手からこぼれ落ちた感じではなかったでしょうか。敢えて日本の勝因を挙げるなら、ミドル中心の相手の攻撃に合わせるかのように、日本も普段多くないミドルの攻撃を多用して攻め方を変えたこと、パワーと気迫にあふれた西田有志の決定率が後半目立って上がったこと、苦戦しながらもキャプテン石川の冷静な頭脳プレーと勝負勘、またオールラウンダー高橋藍持ち前のレシーブ力やつなぎのスーパープレイが健在だったことなどでしょうか。
現在のバレー人気は『ハイキュー』というバレーを扱ったアニメが火付け役になったようですが、ヨーロッパにおいてバレーボール関連のアニメはもっとずっと昔から放映されており、日本のアニメがヨーロッパのバレーボール人気に大きくかかわっているのは、間違いないと思うのです。三十年前のヨーロッパ旅行で現地のテレビを見ることがありましたが、私の記憶ではドイツでもイタリアでも『アタックNo.1』を放映しており、「こんなところで子供のころ読んだ漫画に出会うとは」と、思わず見入ってしまったのです。「コズエ」、「ミドリ」などと現地語で聞こえてくる名前に懐かしさ全開でした。『アタックNo.1』は、なんといっても私が小学生のとき初めてお小遣いで買った単行本の漫画でした。富士見学園の前に立ちはだかった福岡のライバル校のキャプテン垣之内良子の名は今でもフルネームで言えるのですから、これが五十数年前のことであることを考慮すれば、どれほどのめり込んでいたか分かろうというものです。他にも八木沢三姉妹の「三位一体」攻撃は、前衛の三姉妹がトスが上がると同時に三方から集まってジャンプし、体が重なってボールがどこから飛んでくるか分からないというミラクル技でした。子供心にも「こんなのありかなあ」、「こんなところで三位一体という言葉を使っちゃっていいのかな」などと思いつつ、真剣に読んでいました。日本ジュニアの強化合宿ではメンバーが対立や不和を乗り越えて、鬼コーチのもと次第にまとまっていく・・・というような話もあり、バレーを通して人の道を学んでいく教化的なスポ根ものでした。
それにしてもバレー観戦で面白いのは、同じルールで競い合うチームのプレースタイルがどうしてこうも違うのかという点です。それぞれ異なる特徴を持つ成員の各集合体が、最高のパフォーマンスを出して相手を攻略できるかどうかは、どれだけ早く相手の攻め方を先に読み、どれだけ短時間でプレーを修正して対応できるかにかかっています。AがBに勝ち、BがCに勝ったからといって、AがCに勝てるとは限らない、全てのチームに対応できる力はランキングでは測りきれないものがあります。これが本当に面白く、自分たちのプレーを柔軟に修正する選択肢をできるだけ最大化するよう日頃から鍛錬しているかどうかが一番の見どころなのです。
女子バレーは試合のない日にオリンピック出場が決まるという展開になりました。フルセットにもつれた末に敗北(カナダ戦)、という日の翌朝はぐったり疲れを感じましたが、とにもかくにもオリンピックに出場できるのですから、就寝時間を削りながら応援した甲斐があったというものです。今夏の楽しみができました。