2022年4月16日土曜日

「東北新幹線雑感」

  もともと帰省すると決めていた日に、3月16日の地震で大きな被害を受けた東北新幹線が全線運転再開となりました。福島までの路線はすでに復旧していたので、私にとっては日が重なってもどうということはないはずでした。しかし、臨時ダイヤによる運行状況がどんな塩梅になるのかよく分からなかったので、「こういう時は早いに限る」と、始発に乗ることにしました。上野駅に6時10分の新幹線に乗るために、初めて5時前に家を出ました。

 上野駅乗車時にはそこそこ人は乗っていたものの、まあ空いた状態でした。ところが大宮駅に着くと、ホームには溢れんばかりの人々が・・・。あっという間に私の載っている車両は満席になりました。この方々はほぼ宇都宮までの通勤客、私の隣に座った方も、身なりからして若いワーキング・ウーマンでした。驚いたのは駅員が横断幕をもってホームに立っていたこと! 6、7名もいたでしょうか、手を振って見送っているではありませんか。挨拶は返すことにしているので私も振り返しましたが、お隣さんはギョッとした様子でした。「こんな早い時間から仕事に行く皆さんはエライな」とつくづく感心するとともに、「東北新幹線全線運転再開」はそれほどの出来事なのかと知らされた始発列車でした。

 思えば新幹線が上野まで開通した時、私は既に就職しており、学生時代は3時間半を要する急行で帰省するのが常でした。特急列車もあったのですが、我が家では贅沢品扱いで、私は修学旅行で乗ったきりでした。また、帰省時に気持ちを切り替えるのに3時間半はちょうどよい時間だったのを覚えています。しかし、新幹線が旅客運送の主となってくると急行や特急が廃止され、それほど速さを求めない人にとってはただ運賃の値上げとしか感じられない事態になりました。時代の趨勢なので仕方ないのでしょうけれども、『モモ』の時間泥棒を実感的に理解できました。

 さらに時代を経て現在に至れば、もはや新幹線がインフラにおける常態なのですから、それが使えないと先ほどの大宮―宇都宮間の通勤客のように、大変困ったことになります。東北本線で通っておられたのでしょうか。あるいは車? 他人事でも大変そうで同情してしまいます。普通のことを行うのに何倍もの手間と時間がかかるという経験を通して、普段の暮らし方において、「以前ならあり得ない困難な選択を自分はしていたのだ」、ということに気づきます。現代社会で生きる便利さ、快適さの陰にある落とし穴を見たようです。とはいいながら、歳を重ねた身には上野―福島間を1時間半でつなぐ新幹線はしみじみ有難いものとなっています。