2020年3月7日土曜日

「新型ウィルス感染の七不思議」

1.マスクの不思議
 「マスクには感染予防効果はない」ということが専門家から何度もアナウンスされているにもかかわらず、マスク不足は深刻になる一方である。これは多くの人がマスクに何らかの有効な意味を認めているか、自分は感染しているとみなし他の人にうつすまいとしているか、どちらかもしくはその両方ということになるだろう。この状況では、国は国家の威信をかけてマスクの増産(個人が自分のマスクを手作りすることを含む)を国民に促すのが唯一の解決策であるのに、そういう気運が醸成されないのが不思議である。政府も国民も自給自足の精神を忘れて久しいからであろう。医療機関でさえマスク不足が喫緊の問題となるところまで追いつめられているのに、政府は買い取ったマスクを北海道の一般人に配布するというとんちんかんなことをしているのである。これを不思議と言わずして何と言おう。

2.小中高全国一斉休校の不思議
 これに関しては安倍首相のほぼ独断による決定であるということが明らかになっている。これは木曜の夕方に発表され、月曜から実施という驚くべき性急な要請であった。この決定にあたって、一斉休校によって「女性が輝く社会」の担い手たちが家庭で子どもたちの世話をするため、病院から、幼稚園・保育園から、或いは老人介護の現場から一時的に退場しなければならないリアルな現実は脳裏に去来しなかったのであろうか。しなかったとするなら、それはあきれるほどの想像力不足と言わざるを得ない。今どき、全世帯が一家四人の核家族で、母親が手作りおやつを作りながら子どもの帰りを待っているようなイメージを抱いて、家庭へのしわ寄せを過少に見積もってしまったのではないかとの疑念を払しょくできない。でなければ保育園が一斉休校から除外されている理由がわからない。親が働いていることが明確なので休園にできなかったと考えられ、経済活動は止めてはならないとの強い意思が見て取れる。感染リスクは家庭内が一番多いという報告もある中、これほど国民への負担の大きい政策の実施を行うにあたって、国の英知を結集してあらゆるシミュレーションをおこなった上での結論を出すべきだとの認識が、一国の首相になかったのが不思議である。

3.世代間対応の不思議
 厚生労働省の感染症対策専門家会議からのアナウンスの中で、10代、20代、30代の方々に向けて、「若者世代は重症化リスクが低いが、症状が軽いため重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性がある」として、若者世代が人の集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えると呼びかけている。これに対しては、年代別の感染者数の資料を持たないが、かなり奇妙なロジックであると思う。この議論には「若者は活動的で、人の集まる風通しの悪い場所にいることが多い」という前提がなければならないが、それは本当であろうか。大阪のライブハウスではクラスター感染が起きたとされているが、現にここの感染者は年代を問わないようである。そもそも年齢ピラミッドからして若い人はとても少なく、公共交通機関に乗っていて思うのは、時間もお金もある行動的な高齢者の圧倒的な人数であるというのが偽らざる実感である。とすれば、上記のような「お願い」はまさしく身を守るため、重症化リスクのある高齢者に向けられるべきである。少なくとも年代を明示する必要はなく、一般的アナウンスでよいというのが、まずは妥当なところであろう。ここまで年代特定されたのでは、何だか若者が気の毒になると同時に、この専門家会議の年齢構成が気になってしまうのである。

4.PCR検査数が増えない不思議
 これは確かに謎である。というのは、普通に考えれば、検査によって日本より多い感染者を記録している中国、韓国、イタリアの医療体制より日本の医療体制の方が劣っているという至極まっとうな結論になるはずなのに、そう考えられていないからである。巷では政府が簡単には検査を受けられないようにしていると思われており、中にはその理由を次のように述べる人さえいる。「インフルエンザによる肺炎でも年に1万人くらい死亡しているのだから、、新型ウィルスによって同程度の死者が出てもおかしくはない。ただ、そういう事態が明るみに出ると、日本が特別に危険な国とみなされることは確実なので、検査を阻んでいるのである」と。個人的には、他国に比べて医療体制が遅れていることの方が恐いので、こちらの可能性からも目を背けるべきではないと思うのだが・・・。

5.経済予測の不思議
 これについては、景気予測の大幅下落についてあたかも予想外の事でもあるかのように騒ぐのが不思議である。インバウンドの大号令をかけて日本を「観光立国」化したのは政府である。観光というのは人任せの頼りない産業である。ヨーロッパには観光業が主産業という国が結構あるが、私は若いころ観光に大きく依存した国を訪れるたび、他国のことながら一抹の不安を感じていた。それが自国の事となってしまったのである。また、世界のグローバル化によって様々な産業分野でも問題が浮き彫りになっているが、これを踏まえてあらゆる角度から自国の産業を見直すべきではないだろうか。私が最も恐れるのは、トイレットペーパーより食料がなくなることなのである。

6.水際対策の不思議
 最初の入国制限は、2月1日から①過去14日以内に湖北省滞在歴がある外国人、②湖北省発行の中国旅券所持者に対して行われ、2月13日からは浙江省からの入国者にも適用された。そして、3月9日から中国・韓国からの入国者に対してビザ無効、全面的な入国制限となる。遅すぎる。この決定がその3時間前に発表された習近平国賓の来日延期の決定と無関係と考える人はいない。国民の健康とこの程度の外交行事の延期とを天秤にかけて迷う一国の首相がいるというのが、信じられないほどの不思議である。絶句するほかない。
 
7.東京オリンピックの不思議
 これについては前々回に詳述したので繰り返さない。この事業計画の発端とその経過をたどれば、何事もなく実施できると考える方が不思議である。

 余談であるが、今回の騒動で卓越した政治力を発揮している台湾の蔡英文のブレインと言われる天才閣僚オードリー・タンが話題になった。WHOにさえ加盟できないという困難な国際社会で生きる台湾の知性を見せつけられる思いである。日本でこれに匹敵する人材は・・・対局で二十手先を読める藤井七段しかいないのではないか。こう思うのは、日本の教育が数十年かけてマニュアルのない事態に対応できない人材を作り上げるのにいそしんできたのだから当然なのであって、これに関して不思議なことは何もない。