2020年1月14日火曜日

「幻影の日本家屋」

 お年賀のお便りをいただいた中に封書のものがありました。同じ職場で働いた仲ですが、その方は盲教育の分野で右に出る人がいない、私のような者には雲上人のような存在です。超多忙の中、年頭にいつも丁寧なお便りをくださいます。昨年は日本ライトハウスと共にお仕事をされ、プロ中のプロに接してさらに教えられることや考えさせられることがあったとのこと、私などには到底計り知ることのできない世界です。あの方にしてまだ学ぶことがあるのかと、盲教育の奥深さに深く感じ入りました。

 りくのことを気にかけてくださっていて、犬を飼いたいが飼えないので、『作家の犬』という本を慰めにしているとのことでした。この方は国語教育の専門家でもあります。早速、図書館でその本を手にしてみると、手紙に書かれていた通り、特に昔の作家はとても広い庭のある家に住まわれて、犬たちも幸せそうでした。三頭くらい犬の名前が書いてある作家もいましたが、これは三頭同時に飼ったのではなく、一頭ずつ寿命まで飼ったもので、犬がいない暮らしは寂しくてやりきれなかったのだろうなと思いやられます。

 そして緑明るく広い庭にはため息です。同じ本棚のコーナーに『文豪の家』という本もあり、パラパラ見ていて気付いたのは、今の日本家屋との違いです。昔の家にほぼ必ずあって、今はあまり見られないのは縁側という空間です。あの外とも内とも言えない微妙な空間が、その頃の日本の暮らしを成り立たせていたのだと今ならはっきり分かります。私の最も古い記憶には家の縁側と日当たりの良い長廊下、石造りのキッチンシンク、それに台所に続く土間という、ここにしかない光景が強烈に残っています。実際、近所の人や子供が縁側によく来ていた気がします。その家にいたのは4歳前までなのですから、「へえ、あの家の記憶があるのか」と以前父は驚いていました。

 今は一戸建てにお住まいの方は、縁側どころか、外からの侵入に備えてセキュリティには気を使われることでしょう。様々な問題があっても、鍵を閉めるだけで外出できる手軽さから、マンションを選んでいる人も多いことでしょう。ここでは庭やルーフバルコニーに出るにしても、家の中からであり、閉鎖された空間に違いはないのです。ちなみに、どなたも自分の家の気に入った点があると思いますが、私の場合は玄関とお風呂場に窓があることです。特に曇りガラスの小さな窓から射し込む夕暮れの淡い光を見ながら、湯船につかるのはこの上ないくつろぎの時間です。