「邯鄲の夢」もしくは「一炊の夢」と言われる話がありますが、粟粥が煮える間ではなく本当に一睡の間に見た夢について書いておこうと思います。話は十年後のことです。
二度目の理事が回って来た。集合住宅のメンバーも少しずつ入れ代わり、若い方々、働き盛りの方々は目まぐるしい日々の生活を送っているご様子で、一方高齢化は一層進んだがお仕事をお持ちの方も多く、また、皆お孫さんの世話や老親の介護を担っておられるので、暇な人など一人もいない。十年前のやり方で理事会を運営していたら今頃破綻していたことだろう。ぎりぎりのところで運営方法を切り替えて本当によかった。最初の時の理事会の大変さを思い出すとめまいがする。理事会には集合住宅に関するあらゆる事柄が集中しており、それを全部こなさなければならなかったからだ。自分の生活を犠牲にし、睡眠時間を削り、体調不良にも耐えながらなんとか理事会の運営に携わっていたのである。こういうやり方は誰にとってもよくないし、だからこそ理事会の仕事は敬遠され忌み嫌われてきたのである。
自分が最初の理事として2年間の在任期間に多少とも携わった仕事は、毎月の集合住宅の生活の維持に関する通常業務を別にすれば、議事録作成のための確認作業、駐輪場で起きた事故対応に端を発する駐輪場調査とその問題の把握、大規模修繕5年目のアフター点検、アフター点検に発する小規模な修繕工事対応、輪番制確立のための協力依頼と手順の作成、宅配ボックスの適正な管理、居住者の緊急連絡先資料の作成と保管、民泊禁止議案関係、書類及び文書データの整理、書庫の購入、深夜発報の火災報知器関係の事後対応、引っ越し時の居住戸からの水漏れ疑惑問題への対応、長期修繕計画策定のための工事履歴の把握及び長期的視野に基づく工事簡易表の作成、半年以上にわたった設備改修工事に関わる議案上程のための諸事項、駐輪場問題と粗大ごみ問題への緊急対応、といったところである。要するに何でもかんでも理事会の仕事なのである。
そしてついに、ガーデニングクラブの解散が “the Last Straw” になったのである。環七に面した花壇、中庭の花壇、駐輪場側の花壇の手入れや定期的な草取りと水やり、各階プランターの手入れや定期的な水やり、中庭のトネリコの3年ごとの土の入れ替え・…たとえエントランスの植栽は管理人さんに頼み、他の部分に時折シルバー人材を入れるとしても、こういったこと全てを理事会できちんとこなし、引き継いでいけるとは到底思えなかった。理事会として担当者を決めるにしても生き物相手では荷が重すぎるだろう。ガーデニングクラブにはギリギリまで頑張っていただいたが、結局ボランティアだったため続けることが出来なかった。であれば、これを理事会の仕事として位置づけ、アウトソースするまでである。こうして、まず理事会の下部組織として植栽委員会を作り若干名の人員を募った。理事会の仕事としてやるのだから当然特典はある。大規模修繕委員会がその大変さから理事を辞退することができることに倣い、植栽委員会の仕事を2年以上やった人は輪番制の理事が回ってきた時に、本人が希望すれば1年で次の方へパスできることとした。ただし、何年やっても理事をパスできる年数は1年のみである。皆で全体のことを知り共に居住環境について考えていくという輪番制の理念を保つためである。こうして現在では園芸好きが何人か集まり、話し合いながら自分たちのペースで植栽の世話をしてくれている。
最初は細々と始まった小委員会だったが、今ではずいぶん数が増えた。アフター点検委員会(大規模修繕工事後2年目と5年目の点検を請け負う)、長期修繕計画委員会(大規模修繕工事の翌年と5年目点検の翌年に修繕積立金の見直しをする)、設備更新委員会は分野別に2つあるが、大規模な工事を伴う仕事は交互に担当し負担を減らしている。忘れてならないのは駐輪場委員会である。この委員会は毎年の駐輪場の契約更新にかかわる業務を請け負ってくれ、また駐輪場に関する問題を解決してくれている。駐輪場委員会は数年前に結成され、自転車の使い方に関するアンケート結果から、「自転車にはたまにしか乗らないが必要になる時があるため駐輪場を確保している人」や「自転車はほぼ毎日使うがほとんどが買い物で長時間は使用しない人」がかなりの人数いることを把握し、シェアサイクルの試みを実験的に行った。自転車を処分すれば駐輪場料金と同額で一回3時間以内なら使い放題という料金設定から始め、十数名から申し込みがあったとのことだった。初期費用はかかったが実情に合わせていくつかの料金設定プランができ、今年は後部カゴ付き自転車3台分の予算請求があった。徐々に貸し出しや修理に関するルールが整備されている。駐輪場委員会は現在6名の人員を擁しているが、メンテナンスを行うとなると増員が必要かもしれない。小さなところでは毎年の消防訓練を取り仕切っている防災委員会、宅配ボックス・落とし物・ゴミ置場に関わる諸問題を扱う生活委員会もある。
現在では組合員の半分ほどが何らかの委員会に属しており、それぞれ自分の経験や得意なことが生かせる分野で各自の力量に合わせ、またその年の自分の状況に合わせて、できる範囲で管理組合の仕事をしている。以前はなんでも理事会が抱え込んで、やったことのない仕事、やり方がわからない仕事を押し付けられていたため憂鬱だったが、現在ではそれぞれの委員会に必要な知識やデータが蓄積され保管されているので本当に仕事が楽になった。今では、理事会の仕事はほぼ、記録を残すこと、会計に関すること、各委員会の統括、あれば住民トラブルへの対応等だけである。2か月ごとに顔を合わせる各委員会からの報告を入れても、理事会は1時間以内で終了する。報告は文書またはデータでいただいているので議事録の作成もすぐできる。理事が回ってくる時には原則として委員会は抜けることになっているが、「輪番制で回ってくる理事会が一番楽だね」と皆で話している。副次的なことでよかったのは、役員活動費を廃止できたことで、これは長い目で見れば駐輪場の整備費用を補って余りあり、組合費の有効利用につながっている。社会環境の変化に伴い新たな委員会の設置を求める声が上がることもあり、希望者が何人か集まって申し出て理事会で認められれば小委員会となる。管理組合の成員全員が何らかの委員会に属するようになり、理事会が理事長、副理事長、書記、会計、監事の5名で構成される1年交代の会となる日もそう遠くないだろう。
「ああ、よかった。十年かかってここまできたのか」と思ったら、目が覚めてしまいました。こんな夢を見たのは、頭の中でこの2年間の振り返りが進んでいるからに違いありません。やけにリアルな夢でしたが、こんなふうになれば理想的です。臨機応変で豪放磊落な方が失敗を恐れず大鉈を振るわないと無理なんでしょうね。それより何よりまだ1回目の在任期間は3か月あり、最後まで気を抜かずにやらなければならないことがあるのを思い出し、気持ちがしゃきっとしました。いい夢を見ました。