2018年10月11日木曜日

「紅春  128」

「やはりそうか・・・」と思ったのは、陸の耳のことです。兄がりくと遊びながら、「りくは耳が遠くなったのな」と話しかけていたので、私も認めざるを得ませんでした。帰っても挨拶に来ないのは年を取ったせいだと思っていたのですが、試しに、後ろからそおっと近くまで寄って、「りく」と呼んだら、明らかにビクッとしていたのでやはり聞こえていなかったのです。

 りくはまもなく12歳、人間でいえば後期高齢者になろうかというところでしょうから、加齢による体の不具合がどこかに出てくるのは仕方ありません。これがもし野生の狼だったら生きてはいけないのでしょうが、りくは生まれつき優しい子だからそうでなくてもここまで生き延びることはできなかったでしょう。まだまだ足腰がしっかりしているのは有難いことです。

「りくはもう、番犬引退ね。12歳になったら、定年退職です」
と、りくに言い渡しました。「もう好きなことしてすごしていいよ」と言いましたが、今までとどう違うのか、私もわかりません。ただ、耳が遠くなって、外の猫の鳴き声や郵便・宅配の音が聞こえなくなったのは、むしろ恵みかもしれないということです。きっと昼も夜も安心して眠れることでしょう。夜は早いうちからコテンと横になっているりくをさすりながら、「ねんねだよ~」と言っていたら、薄目を開けたりくに、「姉ちゃん、うるさい」と言われてしまいました。