1か月にわたるリフォーム工事が終わった。最後の週は仕上げや追加の小規模な工事だったので、私ものんびり過ごせた。圧巻だったのはその前の週である。この週は家具屋さんの工房から運ばれた家具の据え付けと、クロス貼り職人さんによる壁紙貼りが大きな作業だった。
プロのクロス貼りというのをはじめてみたが、集中力がすごかった。お昼も食べずに黙々と仕事しており、リビングのクロス貼りは離れたところから見ることができた。背後から見たので手元は良く見えなかったが、思うにクロス貼りに不可欠な特質は精密さと思い切りのよさなのではないかと思う。目標を定めては迷わず貼り、カッターか何かでズバッと切り裂く胆力が要りそうである。あっという間に壁一枚が貼り上がった。お見事というほかなく、ため息が出るほど美しい。
大工さんの方は家具の据え付けという気の張る仕事である。大きな収納家具が3つもあり、こちらも細心の注意をしながらすごい勢いで作業している。寸分の狂いなくぴったりと収めるための奮闘が続く。後で「どうしてこんなにぴったり入るのですか」と聞くと、「ぴったりに造ってあるからでしょう」と禅問答みたいな答えが返ってきたが、そんなに簡単なことであるはずがない。もちろん元々の計測は決定的に大事であるが、実際には微妙に大きいサイズを少しずつ丁寧に削って嵌め込むようである。誠に美しい出来栄えである。
クロス貼りの職人さんと大工さんは、この仕事に二日間かかりきりで、それこそ鬼のように働いていた。そして、この作業が済むと居室はもうすっかりリフォームが終わったかに見える趣となった。
漏水による修繕工事とは別に、浄水器の取り付けと網戸の改修をお願いしているほかは、清掃作業が入って終了である。網戸の改修というのは、集合住宅の一部に使われるプリーツ網戸のことで、もしかすると引き戸にできない部分の網戸として採用されているのかもしれない。しかし、これは見栄えは良いが機能的には重大な欠点のある製品の典型である。プリーツの性質上上下に隙間があり、防虫に全幅の信頼をおけないし、とにかく網目がやわで弱い。この点は清掃に来ていた方とも話したが、清掃もしにくく業者泣かせのようである。私はキッチンや浴室の窓の網戸を枠ごと造り換えて、手前に引く普通の型にしてもらった。些細なことであるが、私にとっては長年悩みの種だったので、ここが新しくなるのはとてもうれしい。
このようにリフォーム工事では実に多くの方々のお世話になった。ディスクワークだけでなく実地にきびきびと作業する方々を見て、「お仕事頑張ってください」と、素直に労働の尊さを感じられた。誰もが良い仕事をしたいと思っているのである。もちろん私も良い仕事をしていただきたい。私ができることはわずかでも快適に働ける環境を作ることである。時期的にはあまり暑くならないうちで助かった。或る大学の先生が書いていたことだが、研究室のエアコンが効かず、研究用図書とともに扇風機を予算請求したら、その部分は削られたという話があった。研究書は直接研究に役立つが、扇風機は研究者の進退に働きかけるものだからという理由らしいが、この先生は「研究を支援するというのは即ち研究者を支援することである」という趣旨のことを言っていた。私はこの考えを全面的に支持する。人は心身が整った時にこそ最高のパフォーマンスを発揮するからである。これは研究者に限らない。もちろん職人さんもそうである。この場合、私にできる環境整備と言うなら、それはもう「お茶出し」、これしかない。いずれにしても、働く人を応援するのは自分の使命と心得ている。良きことのために働いている人々をきっと神様も祝福してくださるに違いない。