先日保険会社から電話があり、「1月以降の居室の被害が11月の水漏れ事故からのものとは、提出書類上からは判断できないので、現場調査をしたい」とのことだった。「5月の連休明けからもうリフォーム工事に入るのですが・・・」と告げると、相手は驚いて「調査員をすぐ手配できるかどうかやってみます」とのことで、結局工事初日にやって来ることになった。もちろん工事前の状態を調査するのが目的であるから、職人さんには申し訳ないが、午後からの作業を1時間余り待ってもらわねばならなかった。
保険鑑定人と保険調査員の違いがよく分からなかったが、どうも前者は主に建物被害の鑑定、後者は保険申請者自身の調査という役割分担のようだった。まずはお二人と面談。これにはリフォーム工事施工担当者も同席していただいて、4人での顔合わせとなった。1時間程度で聴き取りをするには何か質問項目やレジュメのようなものが必要なはずだが、そういったものを出す気配がないので、私の方から自分が作っておいた、水漏れ事故後の半年間の経過を時系列にしたメモをお渡しした。それから、まず鑑定人が一つ一つの事項を辿る形で質問し、こちらはそれに答えていくというふうに進んでいった。専門的な問いには建物の構造をよく知る施工担当者が答えてくれた。問題の焦点である給湯管からの水が天井裏に水滴となって降り注いだメカニズムについては、特に鮮やかに解説してくださった。到底私一人では対処できない場面であり、本当にありがたかった。
「なんか変だな」と思ったのは、屋根裏の水を家庭用除湿器で23ℓ輩出した話をした時であった。鑑定人が「その除湿器ありますか」と言う。私はすぐ持ってきて「2008年製、なんとナショナルの製品ですが、一週間連続で故障もせず頑張ってくれました。昔の日本の家電のすごさを改めて知りました」とお話しした。顔には出さないが、無論心はムッとしていた。鑑定人は、このような話さえ作り話の可能性があると考えているのである。私は少なくとも平然としていたつもりだが、隣の施工担当者は「最近の鑑定は裁判みたいだな」と、聞こえよがしにつぶやいていた。そして、続く質疑応答に業を煮やして、「実際に現場をご覧になった方がいいですよ」と、鑑定人を水回りの被害現場へと連れ出してくれた。浴室、洗面所、トイレ、玄関ホールと巡って、あれこれと説明している声が聞こえた。
さて、私の方は調査員の聴き取りに応じることになったが、有り体に言ってあれは「事情聴取」もしくは「取り調べ」に近かったと思う。申請をした本人が住所に書いた自宅にいるのに、身分証明書の提示から始まったのである。そして仕事の有無、入居年数、これまでのリフォームの有無も訊かれた。私の場合給湯器交換のみだが、これはどういう質問なのだろう。メンテナンスをきちんとしてるかという趣旨なのか、それとも保険金を利用したリフォームマニアかどうかを知るためなのか謎である。それから先ほど話した内容の再確認と追加説明を求められた。これなどは「供述」内容の不審点の洗い出しなのだろうと思う。このように微に入り細を穿った聴き取り調査であった。
あとは私のカメラとスマホの証拠写真(事故後の被害状況を収めた写真)を日付と共に何枚もご自分のスマホで撮っておられた。除湿器の写真さえ撮っていたのにはあきれを通り越して笑いが込み上げてきた。さらに仰天したのは、私が撮った証拠写真を「誰かに送っていないか」と尋ねられたことである。なぜそんなことを訊くかと言えば、もし私が誰かにその写真を送っていたら、その相手(第三者)に日付を確認できるからであろう。つまり本人が撮った写真はいくらでも日付を偽装工作できるとお考えなのである。自宅の被害写真を誰かに送る人などいるのだろうか。見ただけで憂鬱になる写真である。私など自宅被害のことは数か月友人にも話せなかったくらいだ。後で分かったことだが、調査員は管理人さん(第三者)からも写真を手に入れようとしていたことが判明した。第三者からの証拠によって当該者の証言の証拠固めをしなければならないことになっているに違いない。仕事とはいえ、ここまで疑われるとはさすがに腹に据えかねる。
お二人がお帰りになってから、管理人さんからインターフォンで連絡があり、「保険屋の二人が、許可なく建物の写真を撮りまくっていた。エレベーター内の掲示物や掲示板の掲示物まで撮っていた。『どなたですか。いったい何ですか』と言ってやめてもらった。『保険屋です』と言っていたが、不動産屋かと思った」とひどくお怒りであった。もっともなことである。ちゃんとした会社の社員がこんなに態度が悪くてよいのだろうか。このことを施工担当者に伝えると、先ほど現場で話した鑑定人について、「あの人、何にも分かってなかった。『勉強になりました』と言って帰っていった」とのことだった。今回の体験から思うのはただ一つ、「二度とこんな不愉快な思いはしたくない」ということである。そのためにリフォームをするのである。これから長丁場になるが、今回の対応のような腹立たしさを経験した後では何ほどのことでもない。施工会社の方や職人さんは皆気持ちの良い方ばかりである。きっと言い訳の利かない実物と日々向かい合っているからだろう。