2025年5月15日木曜日

「工事の進展」

  先日は突然の「審判」というカフカ的不条理に見舞われた私であるが、工事の方は幸いなことに無事進んでいる。工事初日には玄関部分の天井板が剥がされ、屋根裏のスチールの骨組みや水道管や電気線等が見えた。以前東日本大震災で取り壊しとなった福島教会を再建する時、かなり建ち上ってきた礼拝堂の内部見学会に参加した時のことを思い出した。あの時は全て木造で木の香りが満ちていた。工事担当の方の案内でヘルメットを被っての見学だったが、上に向かって徐々にすぼんでいく大きな四角推の屋根を造るのに、何十という足場を組むのが大変だったというお話を聞いた記憶がある。

 私の自宅の解体工事では、屋根裏が水滴と水蒸気で満ちていた結果として、かび臭さと水による建材へのダメージが半端ないことを改めて目視できた。鉄骨が錆びておらず無事だったのが幸いだった。この日は玄関ホールのみならず、洗面所の壁紙も全部剝いてカビをこそげ落として終了となった。

 工事2日目からは造り付け家具の大規模な解体があった。玄関左手の下駄箱や物入れ、特にカビに侵された右手の物入れ、トイレ向かいの大きな物入れと、全ての収納庫の解体が始まり、家の様相が様変わりした。壁の石膏ボード等も必要に応じて解体され、ちょっと見には爆撃で破壊された戦闘地域の家屋のようである。壁にはボードを載せる高さの基準となる部分が各所に点在しているが、これは板を載せてから隙間に小さな穴をあけて断熱材を注入するとのことだった。こういうことも初めて知った。

 「大工さん、大変だったろうな」と今さら思うのは、住人が居住したままのリフォーム作業なので、一挙に解体という訳にはいかず、少しずつ解体したところへ適宜断熱材を貼っていく等の段取りが必要だったことであろう。これまで断熱材のなかった屋根裏部分にも相当厚い断熱材が張られるのを見て、本当に安心した。これだけ張れば真冬でも結露はほぼ生じまい。それにしても、天井に一分の隙もなく断熱材を貼るプロの手並みがすごい。簡単そうに見えるが、素人には絶対できない美しさである。上水管更新工事で水が使えなくなる前日まで、必要な水回りの箇所を残していただいたので、支障なく生活できて感謝であった。ほぼ室内だけの作業とはいえ、資材の運び込みには天候も作業の重要な要素で、また一戸建てなら資材の搬入はスペースさえあれば容易であるが、集合住宅の場合はオートロック解除、エレベーターでの上階までの運び上げ等、なにかと煩雑な手間が多いことであろう。

 このように工事が順調に進んでいくのは、もちろん全てを差配する人がいるからである。皆とこまめに連絡を取り合って指揮しているのは、そもそもの初めから施工を担当してくれている営業の方である。この方がいなければ何一つ始まってもいなかった。工事は最初にいただいた工程表に則って行われるが、時々刻々変化する様々な状況に応じて、臨機応変に手直ししながら進めることが必須である。据え置き家具の細部の確認があり、玄関ホール等の電灯の色味の確認があり、洗面所とトイレの床材の確認があり・・・と、サクサクと進んでいく。他にいくつもの案件を抱え、突発的事案にも対処し、それぞれの工程を同時並行で進めているのだから、この人の頭の中はどうなっているのだろうと思う。時間的制約の中で、必要な打ち合わせをしながら、それぞれの工事に関わる生身の人間の動きを全て勘案してスケジュールを日々組んでいくのは、列車のダイヤを組むくらい大変なのではないだろうか。大工さんにしてもこの方にしても、一つのお仕事に長年取り組んで来られた方は、到底他の人には到達しえない地平にあるようである。

 さて、給水・給湯管の交換で水道が使えない間は、さすがに田舎に退避せざるを得ない。水が使えないと、途端に人間の生活はまさにお手上げである。加えて浴室、洗面所、トイレの更新があるため、今回はいつになくロング・グッドバイである。帰省して「ああ、やはり」と思ったのは雑草の生い茂った庭である。明日から雑草との闘いが始まる。いつもあと少しのところで取り切れずに終わるが、今回は夏の繁茂期に向けて取り残しのないようにしたい。また、初夏を迎えるこの季節、とれたての野菜や果物を買いに農協の直売所に行くのが楽しみである。