2025年3月13日木曜日

「ハチの日」

   終わらぬ断捨離疲れを感じていた3月8日の朝、無類の犬好きの友人に誘われ私は、十年前にできた東大農学部の「上野先生とハチ公の像」の前にいた。3月8日は忠犬ハチ公の命日である。ラジオの「今日は何の日?」でアナウンスされるほど重要な日なのである。ハチが8日に亡くなったとは記憶しやすく、狙ってもできないことだ。8の付く日だけでもざっと10分の1の確率、8日限定なら30分の1の確率である。すごいぞ、ハチ。

 この日は真冬の寒さ。そのせいか、はたまた午前中だったせいか、あまり人も犬もいなかった。ハチの命日には犬たちも訪れるらしいのだが、私たちの滞在中に出会ったのは一家族、ご夫婦と四頭の秋田犬のみ。犬とお話しさせてもらったり触らせてもらったりして、テンションが上がり、もう可愛くて仕方ない。私が気づいた範囲ではそのうち二頭は身体に障害があったが、それを感じさせない身のこなしだった。とても事情は聞けなかったが、「四頭とも保護犬」とのこと。飼い主さんに頭が下がる。身体障碍を克服する動きができるようになった犬たちを見ていて、おそらく長い年月を要したであろう、飼い主さんとの愛情に満ちた生活を想った。幸せいっぱいでなければ、こんなにも人懐こく応えてくれるわけがない。もう一頭の子はお歳を聞いたら13歳とのこと。大型犬としては長寿に違いなく、なでながら「頑張ってきたね、エライ、エライ」と話しかける。この子たちに会えただけでも来た甲斐があった。それから資料館で、恐らくここでしか手に入らないハチグッズを買う。ボランティアの人かなと思う方々による、手作り感満載のコーナーだった。

 次に向かったのは上野つながりで国立科学博物館である。とにかく寒い日だったので一息つけた。土曜日で子供たちも多く混んでいたが、やはりハチのはく製は見なければなるまい。確か日本館の二階にあった。同じところに、日本の南極観測隊に同行したカラフト犬ジロもいた。タロはおらず、タロがいるべきところにはなぜか甲斐犬がいた。今年3月22日に日本のラジオ放送は開始から100年ということで、ラジオで時折当時の音声が流されるが、タロとジロの時はアナウンサーが「生きていた、生きていた」と叫んでいた。これもまた日本人と犬の親密な歴史を物語る音声記録である。館内の他の展示も回って満足、「ハチの日」を堪能した一日だった。立派な方々、立派な犬たちに会えて、胸が熱くなった。