水難をきっかけに私の防災意識は一挙に高まり、それまで用意していた緊急避難袋の点検を始めた。区から届いた「災害時安否確認申出書」に同封されていた「非常持ち出し品」のチェックリストを見るや、私は自分の考え違いを悟った。チェックリストを順に書き出すと、
飲料水・食料(水やお湯を使わないもの最低2食分)、上履き、タオル・着替え、スマホ・充電器、電池・懐中電灯、携帯ラジオ、ティッシュ、ポリ袋、簡易トイレ、常備薬・お薬手帳
<感染症対策として>
マスク、アルコール消毒液、体温計、ハンドソープ・固形せっけん、使い捨てビニール手袋
となっている。要するに、「そのまま食べられる最低2食分の食料」というところから分かるのは、「非常持ち出し袋」とは、まず取り敢えず1泊を乗り切る程度の最低限の準備だということである。これなら家にあるものをまとめて大きめのリュックに放り込むだけでよい。
これまで避難袋に私が入れていたのはかなり余分なものが多かった。アルファ米、ラップ、スイスアーミーナイフ(大小のナイフと缶切りやら栓抜きやらを一体化して折りたたんだ携帯用具)、同じ会社のスプーンとフォークが組み合わされて折りたたんだ携帯用食事用具、コップ、はさみ、爪切り、ライター、ろうそく、トイレットペーパー、軍手、ミニ洗濯物干し、ロープなどなど…。確かに最低限普通の生活をするにはこういったものが必要であろう。しかしこれらは、何とか家で暮らせる状態もしくは一旦家に戻れる場合に必要になるモノである。つまり「避難対策は2段階で行わなければならない」ということである。恥ずかしながら、私はこのことを初めて意識した。これからは1泊用の「非常持ち出し袋」と家用の「避難用品箱」に分けて考えることにした。
家の「避難用品箱」には、ペットボトルの水、お湯を注げば食べられるインスタント食品、アルファ米、缶詰などの食料、それに簡易コンロを備蓄しておく必要がある。これまでの備蓄品を点検すると問題が明らかになった。アルファ米は完全に消費期限切れ(このさい賞味期限は問題外)であり、簡易コンロは最後に使ったのがいつか思い出せないという危険な状態であった。ラーメン等のインスタント食品は塩分が気になって普段ほぼ使っていなかったが、このところ電話待ちで家から出られないことが続いた経験から、「これもやはり少しは必要だな」と実感。買い物に出られないというのは一種の非常事態である。
次に1泊用の「非常持ち出し袋」の食料に関しては、愛用しているカロリーメイトは最適だと思う。まさか1泊の避難生活先で魚の缶詰を開けて食べるわけにもいくまい。あとはカンパンもよいが美味しくはないので、代わりにお菓子類(チョコレート、飴、お煎餅)も侮りがたいのではなかろうか。期限切れを起こさないための工夫としては、家の「避難用品箱」に入れる食料はキッチンの食品庫ではなく、初めから分けて「避難用品箱」に入れ、古いものから消費すればよい。アルファ米など普段食べないものは1年に1度入れ替えるくらいでよいだろう。1泊用の「非常持ち出し袋」に入れる食料も初めから分けてここに入れ、同じく古いものから消費すればよし、これはそもそも普段食べているものだから問題なく回っていくはずである。
さて、チェックリストの物品を「非常用持ち出し袋」に詰めていったが、次々と疑問が湧く。飲料水1ℓは重い、500mlでよいか、季節にもよるな、夏ならもっと要る、季節によると言えば着替えだってそうだ、ここは冬を旨とすべしかな、低体温症になったら大変、タオルならバスタオルは要らないか、いや枕にもなるしな、スマホと充電器はいつも電源に繋いであるので袋には入れられない、電池は単4でいいのかな、携帯ラジオがそうだから、電池も定期的に入れ替えないと消耗するな、お薬手帳はいつも通院グッズと一緒のところに置かないと忘れるから、薬の説明書でいいか、アルコール消毒液は小さめのスプレーボトルに入れないとすぐ使えないな、体温計の保管場所は薬箱から「非常用持ち出し袋」に変更しよう、マスクや使い捨てビニール手袋は5枚くらいずつあればいいのかしら・・・・。書いてないけど、あと大事なのは初動の服装。普段はパジャマじゃないと眠れないが、いざという時はやはりジャージの上下と運動靴だろう。薄手のヤッケもあるといいかな。これらは別の袋に入れて枕元へ置いておこう。合理的と思われる準備をしていったら、山歩きしていたころのリュックはパンパンになった。寝袋も出てきて、これは役立つこと間違いなしだが、これらを背負って果たして私は避難できるのだろうかという究極の疑問が残った。