2024年11月15日金曜日

「水難の相」

 1日目

 帰省から帰ってメールボックスを開けると、集合住宅のシステムセンターから「階下で水漏れが発生しています」との仰天のプリントが入っていた。「応急処置として水道の元栓を閉めています」とのことで、慌てて管理会社に連絡を取り、翌日水道設備点検会社にきてもらうことになったものの、「水栓はできる限り閉栓しておいてください」とのことで、洗濯も料理も入浴もできないと分かった。管理会社や水道設備会社との電話のやり取りや電話待ち等で階下の被害状況も分からぬまま一日あわただしく過ぎる。

 どっと疲れが出たが、しっかり食べねば翌日以降の対応に差し支えると、当日と翌朝の食料をコンビニで入手した。気落ちしてほかは何も手につかず。ただ、トイレだけは水槽に水を貯めねばならないので、仕方なく「水栓を開けては超特急で閉める」の繰り返しで、全く落ち着けない。防災の日にペットボトルの水を入れ替えてあったこととお風呂に水が張ってあったことで、飲料水や身体の清拭には困らなかったのがせめてもの幸いだった。


2日目

 朝5時に目覚める。昨夜は12時まで眠れなかったが思いがけず5時間ぶっ続けで眠れ、すっきり起床できた。9時に水道設備点検の方が来た。キッチンや洗面所の裏板を外し検査していたが、どうも温水の配管から水漏れしていることが分かった。それから洗濯機付近やお風呂場へと移り、場所はお風呂場と特定された。水道屋さんが「参ったな~」と渋い顔をしたのは、風呂場は全体がユニットバスで構成されており、裏板を外して見ることができないから。どうも厄介な工事になるらしい。また、配管を今までのように裏に隠すことは無理とのこと。エアコンのように管をカバー付きで壁を這わせるしかないという。私に否やはない。とにかく早く修復してほしいだけである。私の住戸の配管が修復されない限り、階下の修復も遅れてしまう。できるだけ早く見積りをおくってもらうため、郵送ではなくメールアドレスをお伝えした。

 問題の在り処が判明し、見通しが立ってほっとした。私にとって一つ希望が持てたのは、「使えないのは温水の配管だけで、水の配管の方は使える」ということ。水だけ使えれば当面十分ありがたい。ようやく気分が晴れて、買い物にでる。帰りに玄関で管理人さんに水道点検の結果を報告すると、「見積りを取って工事したら、報告書を水道設備点検会社に書いてもらって、被害宅の保険金の申請をする」という手順だと教えていただく。そのまま階下のお宅にご挨拶に行く。原因を伝え、と被害を与えたこと、ご挨拶が遅れたことをお詫びする。私と同じかなり昔からの居住者のためか、「どこの家でも起きうることですから。わざわざどうも」と言ってくださったので、ほっとした。帰って、お風呂の水を入れ替え、洗濯をし、夕ご飯をきちんと作って、「ああ日常が戻った」と思った。同時に、地震や水害の被災者はどれだけ大変なことかと思わずにはいられない。


3日目

 朝、集合住宅の管理組合が入っている保険会社から電話あり。

 この保険には共用部の災害補償だけでなく、個人賠償責任の補償が含まれているので、階下への被害はここから支払われることになる。電話の用件は、水漏れ事故の確認と私個人で入っている保険の確認だった。電話をもらうまで、個人加入の保険会社のことは頭になかった。「当然連絡しているだろう」というニュアンスだったが、何しろこんなことは初めて、それどころではなかったのが現状。また、階下へのご挨拶が済んでいるかとの確認もあった。昨日のことを話すと、「話の通る方で、よかったですね」と。

 電話を切ってすぐ、個人加入の火災保険を引っ張り出し確認する。それから管理会社に「管理組合加入の保険と並行して個人加入の保険の問い合わせを行ってよいのか」と電話で質問する。答えは、「管理組合加入の保険と個人加入の保険会社の間で情報共有することになり、保険金の請求は併せて行えるので、担当者のお名前と連絡先を聞いておいてください」とのこと。

 さっそく、個人加入保険の代理店に電話して用件を話すと、保険会社から電話があった。恥ずかしながら私が初めて知ったのは、保険は「建物」補償と「個人賠償責任」補償に分かれており、「建物」の補償としては、「水道管の破損等は補償の対象ではない」ということ。それじゃ、保険に入っている意味がないと私は思うのだが、多分こういうものまで補償していたらもたないのであろう。補償するのはそれによって被った床の水濡れ等の被害とのこと。私の住戸には今のところ目に見えるような被害はない。「取り敢えず『保険金請求書』を送るので、水道設備会社の水濡れ『報告書のコピー』と水濡れの『写真』、『修復の見積り書』を送ってください」とのことだった。これはほぼ自分には関係ないなと思いつつ聞いていると、「個人賠償責任」補償の方は、別の部署から電話が来るということだった。

 電話を待つがこの日は来なかった。工事や保険のやり取りでは「電話を待つ」ということが多く、家を空けられないのでちょっとした買い物もできずに閉口する。こんな具合で、この日も大変だったが、確実に進んでいる実感を糧に一歩一歩やっていくしかない。


4日目

 朝起きたら、トイレの床に水濡れがあった。雑巾では吸い取れないくらいで、水道設備会社を呼んでくれるよう、朝一で管理人さんにお願いする。「すわ、これが例の水濡れか」と思ったのである。その日のうちに来てくれることになり、何度か電話でやり取りする。午後4時ころ営業の方が来てくれることになり、私も水の出所を調べているうち、どうも破損した配水管関係ではなく、水道管とタンクが接続するあたりから3秒に1回ほどぽたぽたと水滴が落ちていると分かった。二日前に調査に来た時そのボルトも開け閉めしていたので、閉めの調整が足りなかったのではないかと思われた。直前にもらった電話でそのことを話しておいたところ、営業の方だったが工具を持って現れ、なんとか調節していただけた。大事でなかったことに安堵したが、一難去ってまた一難である。ついで風呂場の温水の配管についても少しお話を聞き、こちらから連絡できるよう、名刺をいただいておいた。

 ところがこれで終わらず、もう一つ「が~ん「となることがあった。水を浴槽に入れてあればお風呂の追い炊きはできると思っていたのだが、5分くらいは「追い炊き」が点滅して消えるという事態に遭遇。お湯の配管と関係があるかどうかは分からないが、メーターボックスの中は怖くて触れないので、今度工事に来た時に見てもらうしかないと思う。まあ、やかんにお湯を沸かして体の清拭はできるし、顔や足は水で問題なし。能登の方々を思えばなんてことない。とにかく今日はトイレの床の水濡れ問題が今日中に解決したことを神様に感謝。


5日目

 昨日直してもらったトイレのタンクのつなぎ目からは1~2時間に1滴ほどの水滴が落ちることが判明。これはもう工事の時、再度調整をしてもらうしかないと腹を決め、タンク下に水受けを置く。お風呂の追い炊き機能については、お湯の配管がつながらないと追い炊きできない仕様のガス給湯器なのではないかと思い至る。これも工事の時確認しなければならない。なかなかすっきり片付かないが、ここはじtっと我慢だな。他の生活はきちんと保たれていることに感謝である。


6日目

 日曜で礼拝に出かける。これまでの数日を思い、「安息日とはこのようにありがたいものか」としみじみ感じる。


7日目

 午後4時半過ぎ、個人加入保険の「個人賠償責任」補償担当者から電話あり。「連絡がいきます」と言われてから3日ほど経っている。下の階の方の連絡先を聞かれるが、「住所はわかりますが電話番号は知りません。集合住宅の管理組合加入の保険会社が対応してくれるはずです」とお答えする。「補償のことで何かありましたら、連絡ください」とのことでお名前と連絡先をお聞きし、管理組合加入の保険会社にもお伝えする許可を得る。次いで管理会社の担当者にもその旨お伝えする。


8日目

 外出から帰宅して夕方、水道設備会社に、「お風呂の追い炊きができず、トイレのタンクからも微量の水滴が落ちているので、できる限り急いで見積りを送っていただき、工事に着手してほしい」旨のメールを送る。 


9日目

 最近水難を経験し、にわかに防災意識が高まってきた。ずっと前に用意した緊急避難袋を更新して整備しなくてはと気づく。衣類等も選択が必要だし、他の生活用品や食料品の見直しも必要だが、準備するのに何日かかかりそう。

 折しも区から「災害時安否確認申出書」なるものが届き、河川の水位・非難の情報を電話で知らせてくれる制度の申請登録書もあった。有り難いことである。緊急時の避難や避難所での留意点などを書いて申請した。最近は町内会に入っていない住戸も少なくないと言うが、集合住宅として加入している町内会があってよかった。災害時には個人情報云々を言っている場合ではないのだ。できることは極力自分で行うが、こういう行政サービスがあると安心である。のほほんと暮らしていた日頃の生活を反省させられている。