2024年7月15日月曜日

「猛暑が変える生活様式」

  安生正の中編に、真冬の低気圧による大雪でホワイトアウトする都心の帰宅難民を描いたパニックもの『ダイアモンドダスト』がありましたが、厳寒の東京の恐ろしさもさることながら、昨今の異常気象が日本各地にもたらす脅威はなんといっても猛暑、それに大雨と洪水でしょう。梅雨も明けぬ7月上旬、危険な暑さに覆われた東京での生活は控えめに言っても戯画的にならざるを得ませんでした。

7月〇日  いつものウォーキングに出ようとして、とても無理と気づく。5時の時点で25度をはるかに超えている。買い物の必要があり、7時に開くスーパーに行く。「少しは歩かなければ」と思っての外出である。すでに太陽がギラギラと照りつけ、思わずクラッとする。たかが400mの距離が本当につらい。店内の冷気で一息つき、必要なものを購入して、よろよろと背負って帰る。この時間から「気を確かに持たなければ」と自分に気合を入れねばならぬ状態である。たったこれだけの外出で汗びっしょり、シャワーを浴びて人間に戻る。家でエアコンと扇風機を併用しながら過ごす以外、何もできそうにない。

7月×日  今日は500mほど離れたスーパーに用事がある。普段なら丁度良い運動になるところだが、午前中から30℃近いこの暑さの中歩いて行くほど命知らずではない。切り替えて、家のすぐそばのバス停から反対方向のバスに乗り、数キロ離れた別のスーパーに行く。この店舗がバス乗り場から100m以内だからである。ここで欲しいものが手に入ればそれでいいことにするつもりだったが、やはり用事が済まず、再びバスに乗り駅に向かう。件の最初に予定していたスーパーは駅のすぐそばで、それなら最初からバスで駅に向かえばよさそうなものだが、その店舗が高架を越えた向こう側にあること、そこに向かうバス乗り場が日蔭のない場所にあるのが難点だったのである。ようやく欲しいものを手に入れ、駅からバスで帰宅する。命を守るためには500m歩くよりも、数キロバスに乗ってでもバス停から近いお店を選択するほかない。


7月△日  「いい加減外出して体を動かさなければ体調が悪化する」と思い、朝早めに家を出て、時間をかけてバスで大学の図書館に行く。音声読書器はもちろん持参だが、暑いし重いのでパソコン等の電子機器はあきらめる。1時間ほどかかるがバス内は涼しいのでむしろ体調が整う。バス停から図書館入り口まで250mといったところか。樹木が多いので涼しく、自然の偉大さを体感する。館内では本の検索をしたり、開架書庫にある本をパラパラめくったりする。時々は閲覧室で座って読書を試みながら、1階から5階まで探検するのはとてもいい運動になる。しかし、疲れても横になる場所はないので午前中で切り上げ、昼食をとって帰る。

 この暑さでの交通機関の選択には、その日の天気、気温、湿度のほかに、「乗り場までどれだけ歩くか」、「乗り場までの道のりは日向か日蔭か」、「乗り場に屋根のある待合所はあるか」、「乗り換えがある場合は待ち時間はどれくらいか」、「都営地下鉄は地下での乗り換えが可能か、地上を歩いての乗り換えか」、「地下鉄の駅がショッピングができる地下街につながる位置にあるか(冷気が流れ込んで涼しい)」等、これまでにない要素を考慮しなければならない。大げさに言えばこの条件を加えるということは、これまでの都営交通体験の総決算として脳内コンピュータで最適解を弾き出すということである。かなりうまく対処できていると思うが、近隣の建物の工事の影響でバス乗り場が少し移動しているのには参った。前の場所は木陰だったが、今の場所は全く太陽を避けるものがない。さすがにそこまで見越して行動しろと言うのは無理でしょ。繰り返すが、まだ梅雨明け前。これからが思いやられる。