2025年8月14日木曜日

「健康保険」

  この3月に定年退職した友人から聞いた話でびっくりしたことがある。彼女は最初4月からすっぱり仕事はやめて第二の人生に入るはずだったのだが、健康保険料が重すぎて、やめるわけにはいかなかったというのである。今までの組合保険に任意継続被保険者として加入するにしても、国民健康保険に加入するにしても、どうも年間で百万円くらいの保険料がかかるらしいのである。そのため今までのところにこれまでとは違う勤務形態で勤めることにしたという。

 健康保険の保険料というのは、前年の所得に応じて金額が決まるものであるから、高額の保険料が無収入に近い身に降りかかって来るのは不条理ではあるが、致し方ないことである。私が体調不良で退職した十数年前もそうであった。私は組合の任意継続保険に2年間加入し、それから国民健康保険に移ったのだが、組合の任意継続保険の保険料は思わず二度見するほど高額(さすがに百万円はしなかった)だった記憶がある。しかし、何しろ健康保険であるから否応なしに支払うしかなかった。

 ただ調べてみると、2021年ころから、保険料の算出基準額が標準報酬額から退職時の報酬額に変わったようで、それまでは基準が加入者全体の平均報酬額だったのに、それが個人の退職時報酬額になったことで、以前より4~5割くらいは増額になっているのかもしれない。即ちそれまで源泉徴収されていた額の2倍くらいになると考えられる。

 国民健康保険はもっと大変である。国民健康保険は当初は自営業者や農林業従事者の加入が多くを占めていたのだが、国民皆保険を維持するため、退職して無職になった者、年金生活者、非正規雇用者等を包含することになり、現在ではそちらの方が半数を超えるようになった。

 健康保険はそれぞれの加入者内で運営するのが基本であるが、このような現状では国民健康保険内で収支を合わせることはもはや制度的に無理である。もちろん国民健康保険の加入者は他のどの組合よりも高額な保険料を支払っており、特に国が国庫負担金を減らしている現在は誰もが収入の1割以上の負担となっている。それでも賄いきれず、市区町村の税金を投入しなければならず、これが他の健康保険組合から白眼視される理由でもある。

 若いころ、また働き盛りの頃は病気になる人は少なく、ほとんど医療の世話になっていないのに、毎月所属する組合から高額の保険料を取られていると不満を募らせ、一方退職したり年老いたりすれば病気をすることも増えるが、その頃には国民健康保険の被加入者になっており、所得に比して保険料は高いし、なおかつ他の健康保険組合からは金食い虫のように非難される。つまり、全員が「保険料が高すぎる」という不公平感、不遇感を抱いているのである。

 私は医療の世話になっている身なので肩身が狭いが、少しでも医療費を削減できるよう個人も努力していくしかないと思う。どの健康保険組合も年々保険料が上昇する傾向にあるのは間違いないし、もう保険料が家計の限界を超えていたり、保険証があっても窓口の支払いができないので医療を受けられないという人も増えている。病院経営という観点とは相いれないかもしれないが、とにかく無駄な治療や投薬を少しでも減らすしかないだろう。また、被保険者も重症になってから来院するのではなく、できるだけ初期に受診すること、そして予防に努めるよう心がけることかなと思う。しかし、それも焼け石に水かも知れず、事はもうそんな段階ではないのかもしれないと心の底では恐れてもいる。